くをいろんなひとと食べにゆき、いろいろ話し、大変面白く感じました。ゴーリキイの小説の中に「アアあの奥さんは、蚊に生きることを邪魔されている」という文句があったが、本当にそういうひともあるのですね、そのことを面白く思いました。「私蚊なんかいたら死んじゃうよ」そういうの。二十年アメリカの移民の間に暮しても尚そういう感情であるというのは、他の一面の熱っぽいところ、ものに正面から当って行こうとするところとひどい矛盾であって、その矛盾は滑稽に近いものとなっていることが分っていない。――大変面白いのです。人間観察としてね。
 さっき良吉さんが芝居につかうアコーディオン(手風琴の進化したもの)のことで急に来て、いろいろ話しました。面白い本を翻訳しました。小説ですが、活動の結果手も足も失い目さえ見えなくなった二十四歳の青年が、自分の文学でまだ役に立とうとして書いたものです。感動的なものです。その前にはスエ子の誕生祝に三越へ行って硝子《ガラス》製の奇麗《きれい》な丸いボンボンいれを買ってやりました。やすいもの、だがいい趣味のもの。この頃の硝子製造が発達して芸術的なものの出来ているには驚きます。その前日に
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