日以上続いて居たが、つかまって便所へは行けて居たからねえ。
 そうして見ると、よっぽど悪性の熱だと見える。
 どうかしなくちゃあならない。
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 その晩早速、親元へ電報を打ってやった。
 只身の廻りの世話位なら誰もいやがるものもないけれども、何から何までとなると、女達も気の毒だし、第一、思う様には手が廻らないのが分って居る。
 その上世話をするのもいいけれどいろいろな物に手をつけた体で子供の事をするなどはいくら消毒したと云っても危険であるから親を呼んで相談して見ようと云う主婦の意見に反対する事は出来なかった。
 翌朝早く停車場からすぐ来た宮部の実父は、あまり息子に似て居ないので皆に驚ろかれた。
 体の小柄な、黒い顔のテカテカした年より大変老けて見える父親は、素末な紺がすりに角帯をしめて、関西の小商人らしい抜け目がないながら、どっか横柄な様な態度で、主婦の事を、
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 お家はん、お家はん。
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と云って、話して居た。
 此方《こちら》で種々手厚くしてやる事をあたり前だと云う様な調子で聞いて居るので、感謝されるのが目的でした事
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