ではないと云ってもあんまりよい気持を起させなかった。
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「ちっとも朴突[#「突」に「(ママ)」の注記]なうまみのあるところがない
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と主婦はいやそうに云って居たけれども、添え手紙をもらって医者に話をきいて来た男の様子は、皆が可哀そうがって、涙組むほど、しおれて心配げに変って見えた。
 急にざわめきたった家中は、電話のはげしいベルの絶間ない響と、急にひどくなった雨の騒々しさに満たされて、書斎に物を書いて居る主人と娘は居たたまれない様にあちこちあるき、主婦は何か考えに沈んだ様にしてじいっと椅子から動かなかった。
 避病院に関しての迷信、
 子供の間から、駒込に曲って行く黒馬車や吊台を見るとにげるくせのついて居る娘は、家に居るよりは当人のためになるとは知りながら、何だか悪い事のある様な、恐ろしい気持にならずに居られなかった。
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「なおるでしょうねえ。
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と云って、
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「どうしてそんな事を云うのだい。
 なおるものはなおるに定まって居るじゃあないか。
 馬鹿な事を云う人だ。
[#こ
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