れども、他人の息子をあずかって居ると云う事に非常な責任を感じて居る主婦は、出来るだけの事はしてやるつもりだからもう四五日しての様子を見ると云って断ってしまった。それだのに、誰も知らない内に、
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 お前避病院に行っちゃあどうだい。
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といきなり当人に云ったと云う医者の態度があまり親切気がない様で切角主婦がああ云って居るのにそんな事を云っていやな思いをさせずともと、娘はすっかりいやな気持になって、
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 医者なんてまるで冷血動物だ。
 死にかかった病人に、お前もう死ぬよと云えるのはお医者なんです。
 ほんとうに思いやりがないじゃあありませんか。
 こっちに先に相談して、若しやるとでも云ったら、その時になって、おだやかに云ってやったってわけの分る事だのにねえ。
 お前避病院に行かないかい。
 なんてあんまり人を馬鹿にして居る。
 自分のためにそうして置いた方が安全だからですよ。
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と母を相手に散々腹をたてた。
 日に幾度も幾度も娘は境の障子の外から、
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 どんなだい、
 熱は?

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