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となぐさめて居たが、六日七日と立つにつれて又元に戻った熱は下り様ともしなくなった。
 不安がまた人の心にはびこり出した。
 どうも、変だと云って□[#「□」に「(一字分空白)」の注記]の反応をしらべた医師の報告は一更おびえさせて、無智から無精に病をこわがる女中共は、台所にたったまま泣いたりし始めた。
 当人には云わずに居た事だけれども、種々の様子からいつとはなし悟ったと見えて、
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 僕、どうしたってチブスなんかにゃあならないよ。
 黒馬車にのっけられるのはいやだもの。
[#ここで字下げ終わり]
と云ったと云うのをきいたりすると、いくらしっかりして居ると云ったって二十前の息子が他人の家で病う気持が思いやられて、娘は、他人事でない様な、只書生の云う事だと云いきってしまわれない様な深い思いやりが湧いた。
 進みも退きもしない容態で十日ほど立ったけれども医師の診断はどうしても違わないと云う事になって来た。
 チブスならパラチブスで極く軽いのだけれどもお家へお置きなさるのはどうでしょうと、主婦が神経質なのを知って居る医師が病院送りの相談を持ちかけたけ
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