通った事のあるその女中は、ほんとうに思いやりがあるらしく涙声で云った。
その日一日八度から九度の間を行き来して居た宮部の熱は、夜になっても別にあがりもしなかった。
それでも病人の部屋のわきの竹縁に消毒液をといた金□[#「□」に「(一字分空白)」の注記]がならんであったり、氷の音がしたりすると、皆は、いやなものをさしつけられた様な気持になって不安げなつぶやきが低く起った。
それから二三日は何の変りもなくって退屈に立って行ったが、五日目に七度二分に熱[#「熱」に「(ママ)」の注記]った時には、皆がもう生き返った様な面差しになって、
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「もう大丈夫ですよ、ええ。
チブスなら、どんな事があったって今頃下るって云う事はないのです。
それに、先生が云っていらっしゃったけれど、何にも下熱剤をつかってないと云うんですもの。
まあまあ何よりでしたねえ、
今夜からよくねられる様になるでしょう。
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主婦などは、そう云って自分の事の様に喜んで、わざわざ、宮部の部屋まで出かけて、
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もう大丈夫だから安心して早くよくおなり。
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