分にあがってしまった。
台所では二つの氷嚢に入れる氷をかく音が妙に淋しく響き主夫婦は、額をつき合わせて何か引きしまった顔をして相談して居るのを見ると娘は、じいっとして居られない様な気持になって、何事も手につきかねた風に、あてもなくあっちこっちと家中を歩き廻って居た。
親元に報じてやる手紙が出されるのを見てから赤子のわきに横になりはなっても、自分が経験した病気に対する、あらゆる悲しさや恐ろしさが過敏になった心に渦巻きたって、もうどうしても死なねばならないときまってしまった様な厳な気持になったりして、いつとなし眠りに落ちるまで、もごもごと寝返りを打ちつづけて居た。
明る朝は誰も彼も起きぬけに宮部の容態を気にしあって、夜中に二度ほど行って氷をとりかえてやった女中は、そこいら中で捕えられて喋らされた。
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いつ行っても、天井を見て起きて居るんでございます。
きっと一晩中まんじりともしなかったんでございましょうよ、可哀そうに。
他人の中で病《や》むほどつらい事はございませんものねえ。
[#ここで字下げ終わり]
此処へ来て一日ほど立って、指をはらして二月も順天堂に
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