私の顔を見上げ、
「どウして」
と体を前へ動かすほど力を入れ、
「云ってしまわないんだよ!」
 びっくりして、自分は腰をおとし母親の白い顔を正面から見直した。
「何をさ」
「何って!」
 さもじれったそうに眉をしかめた。
「もう二人も白状しちまったそうじゃないか。お前が出したものは出したと云って、あやまりさえすればすぐ帰すって、警視庁の人が云っているんじゃないか!」
 顔は熱いまんま、腹の底から顫えが起って来た。
「そんなことを云いに来たの?」
「そんな恐ろしい顔をして……マァ考えて御覧……」
「…………」
 愈々声をひそめ、力をこめ、
「その方がお身のためだって、むこうから云っているんじゃないか! それをお前……」
 動物的な憎悪が両手の平までこみあげて来て自分はおろおろしているような、卑屈を確信と感違いしているような母親の顔から眼をはなすことが出来なくなった。
 自分は、一言一言で母親を木偶《でく》につかっている権力の喉を締めるように、
「私は、金なんぞ、だ、し、て、はいない」
と云った。
「わかったこと? 私は、だ、し、てはいないのよ」
 母親のそばへずっとよって、耳元で云
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