度々の獄中生活で、その女は二十八という年よりずっと干からびた体であった。骨だった肩にちっとも似合わない白っぽいお召を着て、しみじみ自分の手の甲をさすりながら、
「正直なところ、ああいうところへ入れられると赤く[#「赤く」に傍点]ならずにいられやしませんね。やり方がひどいからね、人間扱いじゃないもの。……」
 女監守は自分のものを干す物干竿と女囚のとをやかましく別にしていて、うっかり間違えて女監守の竿にかけでもすると、
「オイ、オイ! 誰だい? きたならしいじゃないか! 誰が間違えたんだ!」
と、すぐはずさせ、その物干竿に石鹸をつけてもういいという迄洗わせる。
「そいでいて、自分達がコソコソすることって云えば、平気でお香物やおかず[#「おかず」に傍点]の上前をはねてるじゃありませんか! きたならしくないのかねエ」
 刑務所の食糧は糖分が不足しているから、ウズラ豆の煮たのは皆がよろこぶ。ウズラ豆の日だと女監守は各房へ配給する前、一人ずつの皿からへつって自分のところへくすねて置き、休憩時間のお茶うけ[#「お茶うけ」に傍点]にするのだそうであった。香の物は四切れのところを、三切れずつにして
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