。または、
「ここへ通知人ナシと書け」
という。不馴れのものは、自分たちの権利のつかいどころを知らない。云われるままになるしか方策がない。今の場合、自分は、認定で送れるのだと云われても、ただ常識で、そんな不合理なことがあるか! と撥《は》ねかえすばかりなのであった。
「大体、文化団体の連中は、ものがわかるようで分らないね。佐野学なんかは流石《さすが》にしっかりしたもんだ。もっともっと大勢の人間がぶち込まれなけりゃ駄目だと云ってるよ。そうしなければ日本の共産党は強くならないと云っている」
大衆化のことを、彼等らしい歪めかたで逆宣伝しているのである。
押問答の果、中川は実に毒を含んでニヤニヤしつつ云うのであった。
「まア静かに考えておき給え。君がここでそうやって一人でがんばって見たところで、外の同志達はどうせ君ががんばろうなんぞとは思ってやしないんだから。――無駄骨だヨ」
その頃、前科五犯という女賊が入っていて、自分は栃木刑務所、市ケ谷刑務所の内の有様をいろいろ訊いた。栃木の前、その女は市ケ谷に雑役をやらされていて、同志丹野せつその他の前衛婦人を知っているのであった。
市ケ谷の刑
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