「……ファシストの理論はなっていないようだが……これで赤松あたりが大分関係があるらしいね。案外な役割を買って出ているらしいですよ」
最近分裂して国家社会党を結成した赤松のことは関心をひき、自分は、
「今度の事件にでもですか?」
と、ききかえした。
「サア、そこいらのところは分らんですがね。総同盟系が何しろ五万というからね」
煙草をプカリ、プカリと吹き、
「五万の人間がワーッと動き出せば[#「五万の人間がワーッと動き出せば」に傍点]、放っても置かれまいじゃないですか[#「放っても置かれまいじゃないですか」に傍点]」
それだけ云って、あとは煙草を指に挾んだままの腕組みで凝《じ》っと横目に私の顔を眺める。――
「…………」
対手の眼を見つめているうちに、仄《ほの》めかされた言葉の内容が、徐々に、その重要性と具体的な意味とで分って来る。――
間を置いて、私は歯の間から一言、一言を拇指《おやゆび》で押すように云った。
「――然し、それは窮極において一時の細工だ。歴史は必ず進むように進むからね、帝政時代のロシアでは、サバトフが同じようなことをやった。しかしロシアの労働者は、それを凌いで
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