潔な留置場に押しこまれているよりずっと健康のためにもよい、等云った。自分はよく眠り、体に気をつけてはいるが、膝頭がこの頃ではガクガクして二階の昇り降りが不便なのは事実である。
 十二日に、看守が、
「又、君たちの仲間がひっぱられたよ」
と云ったので、何事かと思い不安を感じた。特高で十一日の作家同盟第五回大会が解散された新聞を見せた。
「これじゃ、同盟は全部留置場の内へ引越したようなもんじゃないですか、ハッハッハ」
 主任は小気味よさそうに高笑いしている。自分はそのこまかく折目のついた新聞を手にとり、同志川口浩、徳永、橋本、貴司などが引致されたというところを繰かえして読み、これらの人々の闘争を、身近に感じるのであった。
 大会が持たれたという事は、しかし何とも云えぬ鼓舞であった。自分が書く筈で書き終えなかった婦人委員会の報告も、して見れば、誰かによってちゃんと書かれているのだ。そう思い、凜《りん》としたよろこびに満たされた。外では皆結束して働き、自分の部署は、今此処で正しいわれわれの主張のために闘うところに移されてある。それを貫徹するこそ役割の遂行である。そう、きつく確信をもって感じるの
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