いと云った。
「――しかしですね」
清水はぐっとのり出した。
「その文章そのものはそうかもしれないが、前後との関係で、いけないんだ。……大体[#「大体」に傍点]、戦争の記事を扱うのがいけない[#「戦争の記事を扱うのがいけない」に傍点]」
「それは妙だ」自分は云った。「キングを御覧なさい。婦人倶楽部を御覧なさい。子役までつかって戦争の記事だらけです」
「冗、冗談云っちゃいけませんよ」
不自然にカラカラと清水は笑った。
「扱いようの問題じゃないか。……つまりこういう風に扱うのはいけないと云うわけなんです」
「だが、戦争をしたって不景気が直らず、却ってわるいというのはお互に知りぬいている事実ですよ。従って、戦争が自分たちのためにされているものでないことがわかるようになるのも実際のなりゆきで、そう思うな、ということは出来ない。いいわるいより、先決問題は現実がどうであるかというところにあるわけでしょう」
清水は、半面|攣《つ》れたような四角い顔をハンケチで拭いて、それをズボンのポケットにしまいながら、声を落して云った。
「よしんば実際はそうであろうとも、この世の中には現実のままで人前には出
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