[#感嘆符二つ、1−8−75]」
「…………」
「強情つっぱったって分ってるんだ」
そして、嬲《なぶ》るように脛を竹刀で、あっち側こっち側と、間をおいてぶった。
「宮本がもうすっかり自白しているんだ。自分が読ましていたことさえ承認したら女のことでもあるし、早く帰してやって貰いたいと云っているんだ」
侮蔑と憤りとで自分は唇が白くなるようであった。刺すように語気が迸《ほとばし》った。
「――宮本が、どこにつかまっているんです!」
さすがにためらった。口のうちで、
「いつまでも勝手な真似はさせて置かないんだ」
ガラス窓からは晴れた四月の空と横丁の長屋の物干とが見える。腰巻、赤い子供の着るもの。春らしい日光を照りかえしながらそんなものが高くほさっている。
竹刀で床を突いては、テラテラ髪を分けた下の顔をつくって呶鳴る縞背広の存在とガラス一重外のそのようなあたり前の風景の対照はちぐはぐで自分の心に深く刻みつけられるのであった。
ケイ紙に書きつけた一項一項について、嘘を云っては、
「云わないつもりかァッ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
と竹刀を鳴らし、又、さけた一尺指しで顔を打とうとす
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