った。
「あても――」
二人は隅で帯を解き始めたが、いきなり里栄が、端折をおろした裾を引ずって、章子のそばへよって来た。
「なあヘェ、ゲンコツぁん、ええことして遊びまほ。――立ちいおしやす」
「何するのや」
「おとなしゅうして、あてらにまかしといやしたらええにゃわ」
桃龍が云いながら章子をつらまえ、着ている褞袍《どてら》をむきかけた。
「これ! 怪体《けったい》なことせんとき」
章子はあわてて胸元を押えた。
「ふあ! 様子してはる――」
大騒ぎで褞袍を脱がせ、それを自分が羽織ったなりで里栄は今まで着ていた長襦袢を先ず着せ、青竹色の着物を着せ、紅塩瀬に金泥で竹を描いた帯まで胸高に締めさせられた章子の様子には、ひろ子も腹をいたくした。
「なんえ、これ! かわいそうな目に会わさんといとくれ、頼むぜ」
「黒人《くろんぼ》の花嫁! 黒人《くろんぼ》の花嫁!」
ひろ子が笑い涙を溜めながら囃した。
「こんな嫁はんあらへん――親出《おやで》や、親出《おやで》や」
「階下《した》へいて見せたろ」
「――一寸待って、何ぞ頭へ被らなあかへんわ、ええもんがある、ええもんがある」
その上に姉様かぶり
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