はん」は彼等が並んで歩いている後姿を描いたのだが、滑稽な中によく特徴を捕えてあった。
「上手《うま》いな」
「……ええもん見せたげまひょか」
手提袋から、彼女は手帖を一つ出した。二寸に三寸位の緑色の手帖であった。或る頁には日記のようなものが書いてあり、或る頁にはいろいろの絵が細かく万年筆で描いてある。時事漫画に久夫でも描きそうな野球試合鳥瞰図があると思うと、西洋の女がい、男がい、それぞれに文句が附いているのであった。「晴れて嬉しい新世帯」都々逸《どどいつ》のような見だしの下に、新夫婦が睦じそうにさし向いになっている。やがて口論の場面が来、最後には奇想天外的に一匹の猿が登場する。瘠せた猿がちょこなんと止り木にのっている。前に立って飽かれた妻が重そうな丸髷を傾け、
「猿公《えてこう》、旦《だん》はんどこへ行かはったか知らんか」
と訊いている。――
絵物語の女が桃龍自身の通り大きな鼻をもっているところ、境遇的な感じ方で描くところ、若い女らしいものが流露していてそれが桃龍だけに、ひろ子は可憐な気がした。
「さ、あて着物《べべ》かえさしてもらお」
隈を自分の顔に描いて遊んでいた里栄が立ち上
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