色のとり合わせが美しく、明るい卓の上に輝やいた。女将は仲間でお茶人さんと云われ、一草亭の許へ出入りしたりしていた。小間の床に青楓の横物をちょっと懸ける、そういう趣味が茶器の好みにも現われているのであった。
「――これ美味《おい》しいわね、どこの」
「河村のんどっせ」
 章子と東京の袋物の話など始めた女将の、大柄ななりに干からびたような反歯《そっぱ》の顔を見ているうちに、ひろ子は或ることから一種のユーモアを感じおかしくなって来た。彼女はその感情をかくして、
「一寸、あんたの手見せてごらんなさい」
と云った。
「手《てて》どすか? 何でどす?」
 女将は、白い木綿の襟を見せた縞の胸元を反らすようにし、自分の掌を表かえし裏かえし見た。
「まあ、一寸見せてさ」
「へえ、何どっしゃろ……偉い可愛らしい手《てて》どっせ」
 肉の薄い血色のわるい掌であった。然し、彼女がたった三本だけ名を知っている掌筋のうち、恋愛の筋がいかにもよそで聞いた女将の身の上と符合しているようなので、ひろ子は少し喫驚《びっくり》した。
「ほらね、だからあらそわれない!」
「なんどす」
「手の筋は正直だからね、女将さんがちょい
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