と、彼女の特徴である大きな鼻や我儘そうな口許が人形のような化粧の下からはっきりして来た。おっとりした里栄に好意を感じつつ、自然位置の関係から彼等は桃龍を中心にする。こんなことにも彼女等二人の性格の違いが現われていて面白かった。
「悧巧なやっちゃ」
 章子が桃龍を苦笑した。
 彼等のすぐ後に、京都大学の学生が二人仲居をつれて見物していた。制服を着、帽子を胡座《あぐら》の上にのせ、浮れていた。地方《じかた》の唄をすっかり暗誦していて合わせたり、
「ほらほら、あれがそや」
「ええなあ……恍惚《うっとり》する程ええやないか」
 一菊と云う舞妓は、舞いながら、学生が何か合図するのだろう、笑いを押えようとし、典型的に舞妓らしい口元を賢こげに歪めた。
 夥《おびただ》しい群集に混ってそこを出、買物してから花見小路へ来かかると、夜の通りに一盛りすんだ後の静けさが満ちていた。大きな張りぬきの桜の樹が道に飾りつけてあり、雪洞《ぼんぼり》の灯が、爛漫とした花を本もののように下から照している。
 一台の俥《くるま》が勢よく表通りからその横丁へ曲って来た。幌をはずして若い女が斜めに乗り、白い小さい顔が幸福そうに
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