たら、彼等は、どちらも、理解されないまま、開かれない扉に面して生活して行く可能が明かなのである。
私だけが、母上との間を又元の円らかさに返したとて、結局どうなるだろう。何も改善されない。又、元のいつでも争いを起し得る固執状態が帰って来る。
来年の新年を、林町へ「お目出とう」を云いに行くことも出来ないのかと云う予想は、自分に涙を浮ばせずには置かないのである。
自分に生活の、愛の確信があり、自分と彼女との性格的差異を熟知して居るばかりで、私は辛うじて今の心持を支えて居る。
支えて居なければならない必要が、果してあるのだろうか。
○
高い、堅い二つの絶壁の間に、子供が落ちた。目をあげて見ると、空まで真暗にキリギシが聳えて居るのが堪らなく怖い。じっと竦んで、右を見、左を眺め廻した末、子供は恐ろしさに我慢が出来なくなって、涙をこぼし泣き乍ら、小さい拳で、広い地層を叩き出した。
「よう! よーお!」
両方の絶壁は子供の感情を知った。憐れに思い、何とかしてやりたく思う。泣声は次第に激しく、叩く拳は次第に熱烈に、苦しくなって来る。
真個に、崖も辛く思う。然し、彼
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