には手がない。彼方の崖にも腕がない。せめて柔かく身でも屈めてやりたいが、後に引続いた地盤は厚く広大で、動きもとれない。
「ようお! よう!」
 オイオイ泣く児を挾んで、崖は、冷たく、堅く立って居るように見えた。
             ○
 金は、無くなると其量だけ結果に於て Less になる。然し、愛だけはそうでなく、不死で、不滅で、同時に、或人の持つ総量に変ることないのを知った。
             ○
 人間が、血縁の深さに惑わされ過ぎることを思う。いつか、人間の如何那関係に於ても、欠けると大変なのは、友情だと云うのを読み、深い真のあるを思う。
 母上、貴方は、どうしてもう少し私や、Aに、友情を持って下さることは出来ないでしょうか。
 A、貴方は、もう少し、一人の友に対して寛大であっては呉れませんか。
 私には、貴方がたのどちらもが、互に害されることを辛く思わずに居られない。どっちからでも可愛がって貰ってさえ居ればよいと云う時代は、いつか過ぎて居るのを知った。

 秋の日の三時頃、縁先に立って、斜にのきばから空を見あげて居た。
 何処かで大工が物を叩いて居る音が響き、ちい
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