れる夜具布団を自分で家から背負って持って行った。そういう窮乏状態であった。私共は、その時分謂わば財布も一つ、心も一つという工合で、必死の生活をやっていたのであったが、稲子さんは、この布団を背負って行ったということを、そのことがあって既に何日か経った後、ごくさらりと、何かの話の間に交えて私に話した。私は、互の仕事と生活とが困難になってから、稲子さんというひとの非常な粘りづよさ、堅忍、正義感、周密さなどを益々高く評価し、生涯の友と信ずるようになっていたのだが、この何でもなく話されたことは寧ろ私を愕かせ、又新たな稲子さんの一面に打たれた。稲子さんは、互の友情にも甘えないひとである。センチメンタルなところがすこしもない。これは女として新しいタイプであり、その点、稲子さんの良人となり友人となる者にとっては、或るこわさがある。対手を高める力として作用する隠されたこわさがある。稲子さんは、例えば私にしろ、私たちとしての立場から見て妙なことでもすれば、のほほんと馴れ合ってはしまわない。自分自身に対してもそのことは同じであると思わせるものを、日頃の生活態度に蔵しているのである。
従って、プロレタリア作
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