げる。

昨日も、おとといも 又さきおとといも
私は部屋から声をきいた。

然し、何と云う いやな音。
雀は勿論 彼等は電車より厭な声を出す。
濁り、限られ、さも苦しそうに
あとから あとから
ケッケッケッケッ、コキーケッケッ
と叫ぶのだ。

風が吹くのに
空は碧いのに
あの声ばかりは 繩で縛られ身を※[#「足+宛」、第3水準1−92−36]くようだ。

新らしい卵を産んだと云うのに
朗らかな歌も歌えない鳥類――
若しや――人間に飼われ 飛ぶ空もなく
卵はあとから盗まれるので
彼那 不快な心になったのか?
若しそうならば――……
ああ、あわれ あわれ
彼等は 野禽の昔さえ
 憶い出さないか?

     *

大空は からりと 透きとおり
風がそよぎ
薔薇は咲き匂う
今はよい 五月だ。

されど、又来る冬を思うと
私の心は、悲しくなる
子供に、夕方が来るように。

あの 寒さ
憐れな木の家の中で 凍る頭や指先
丸くちぢまり 呼もせず
すくんで暮す 朝夕を思うと

出来るなら 黄金の 壺に
此 初夏の輝きを 貯えたく思う。
胸に抱けば 暖かろう
蓋をすかし そっと覗けば 眼も耀こう


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