を白軍の蹂躙から守った五十歳の貧農ピョートルが村ソヴェトの議長に選ばれたとする。
議長席に坐る。鈴を振る。タワーリシチ! と演説する。――みんな出来るが、いざ、さあ議長ここに一寸書いて下され、とペンと書類とをつきつけられると、ピョートルの動顛は頂点に達する。――ピョートルは字を知らないという不便を辛棒しかねる。そうかと云って、字を知っている奴は村の富農のワーシカだとしたら、そのワーシカにソヴェトの仕事がまかされるだろうか? いや! そこで、ピョートルは、ルバーシカの下に汗をびっしょりかいて、村の文盲撲滅の講習会へ出かけるということになる。
若い者に字を習うということが、案外きまりわるくないと分る。やがて、ピョートルの女房も来る。女房が隣りの女房もつれて来る。
「――なるほどねえ、私の名はこう書くのかねえ。こうして字を知りゃお前、書きつけがよめなくて、麦をゴマ化されることもないねえ」
都会で工場のプロレタリアートが字を知らなければ、これ以上の不便はない。労働組合員となって、工場と契約書をとりかわすというときになって、ソヴェト同盟のプロレタリアートで字が書けない(!)
ソヴェト同盟
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