わたしは、日本に特別そういう作家グループはないと答えた。農民を描く作家もプロレタリア文学運動の一つの分野に属すと云ったら、フフムという顔つきでその男が云った。
「われわれのところには、プロレタリア作家の団体とは別に、大きい農民作家の団体があります」
 その口調からおや、とわたしは思い、この男自身農民作家だと思った。だが、どうして、プロレタリア作家と自分等とをそんなに別々に対立するような口吻で区別するのだろう。
 続けて、相手が質問した。
「あなた、ロシアの田舎を知っていますか?」
「大してよく知ってはいないが、あっちこっち旅行はしました」
「どこです?」
 そう云いながら、ジーッとわたしの顔を見据えた。
「ドン地方、北コーカサス地方が主です」
「ふふむ――で、ヴォルガ沿岸地方は?」
「二八年にヴォルガを下って、その時分はニージュニ・ノヴゴロドに、まだソヴェト・フォード工場さえなかった」
「ぜひ、ヴォルガ沿岸へいらっしゃい!」
 まるで命令するようにその男は云った。
「私は農民作家で、ほんとの社会主義がどこにあるか、ソヴェトのほんとに新しいもの、ほんとの古いものが何処にあるか、知っている
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