本としている通り重工業の電化、農村の集団化の主題におかれる。重工業の中でも、特に力を入れて生産拡大をされなければならない部門=鉄、石炭、石油産業が、文学の産業別上にも部門的な重点となる。或る年度に特別の注意をもって扱われなければならない生産部門に属す作家は、その年、特に量と質で沢山な文学活動を必要とされるというわけなのである。
 工場の文学ウダールニク、農村通信員、労働通信員などの間から、その「文学生産の合理化」の実現を要求する声が、あっちこっちの新聞雑誌の上に響いた。
 これに対してラップの指導部は討論を持続しながら、結語はなかなか与えなかった。いろいろの問題がそこに含まれているからである。
 第一、ソヴェトのプロレタリア作家たちが、一時的に農村や工場へ出かけて行って観察し、材料を集めて来るというような状態は、ソヴェトの芸術運動発展の方向から見て恒久的な性質をもつものであろうか?
 七月の党大会に、ラップ代表としてキルションが過去二年間のソヴェト・プロレタリア作家の業績について報告した中で、四十余名の作家の名と作品の名とを推薦した。その中に、コムソモール出身で、労農通信員だった新しい作家たちが少なからず紹介されている。
 コムソモール、労農通信員の中から、プロレタリア芸術運動の交代者が現れつつあるということは、もはや疑う余地のない事実である。
 党の文学に関するテーゼは一九二五年、既にこの点に注意を呼び起した。理論家ヴォロンスキーは最近妙な人道主義へ転落したが、昔、コムソモールや労農通信員の文学的創造性を尊重しなければならないと云った時は、完全に正しかった。その次代の交代者たるコムソモール、労農通信員たちの日常生活はどうであろうか? 彼等はめいめいの職場にあって、すっかり生産と結ばれて育って来ている。質のよい熟練工、技術家、専門家としてきっちりソヴェト生産の中軸的活動者となっている。或る産業に永年従事するものの特別な気持。階級闘争の現実的な経験。五ヵ年計画実現に関連して、或る産業に従事する労働者の独特な生活に起った独特な社会的変化などは、こういう現役兵=コムソモール出の労農通信員によって、最も自然に実感をもって把握され文学的作品の中に描写されつつある。
 これこそ、本然的な芸術における産業別ではないか。
「ラップ」の重大な責任は、社会的労働において既に産別に組織されているこういうコムソモール、労農通信員の創造力を正しく芸術活動へ導くことにある。人為的な作家の産業別わりあては、或る種のオッチョコチョイな作家が工場から工場へと鉛筆をもって飛びまわるという厄介を減らすかもしれない。然し優秀な、拡大力のある作家の芸術活動に題材の固定化を起させるという危険がある。
 さらに、芸術はその特殊性によって、石炭を掘り出すためにきめられた生産経済計画《プロフィンプラン》に従って生産されるということだけでは決して、作品の価値を高め得るものではない。
 文学的作品は新聞記事ではない。主題の強化、題材の蓄積、整理、筋の組立て。それらのためには時間がいる。
 文学はその点で、特に小説は、絵画と非常に違う。現に五ヵ年計画第二年目の一九三〇年に見ても、絵画には既に相当五ヵ年計画がもりこまれている。戯曲も、農村の集団化と都会の工場労働者との結合を主題にしたものがいくつか現れた。然し、一九三〇年度に出版された小説では、工場農村からの報告以外に、まだ五ヵ年計画は十分主題としてこなされていない。出版され、好評のあった小説は多く五ヵ年計画以前に書かれたものであった。無名な若い作者の生産の場所における現実的な経験、日常の地みちな建設への争闘が描写されているという点にそれ等の作品の価値を見出し、そういう作品を求め、次々に出版した。出版におけるその選択ぶりにソヴェト五ヵ年計画以後の芸術方針が認められると思う。
 ソヴェトの文学的生産は、社会生活の全貌を変えた五ヵ年計画と結びついて、発展の道についた。しかしながら、その衝撃的テンポは自ら石油の生産経済計画遂行の衝撃的テンポと同一ではあり得ないのであった。
 一九三〇年の党大会後「ラップ」が自己批判して、工場、クラブ内の文学研究会指導方針を変更したことは前回に書いた。
 孤立的な余技的趣味への閉じこもりを排撃しろ。
 文学研究会員は大衆的に壁新聞、工場新聞へ動員され、活溌な文学活動を通して、勤労者の世界観と自発性とを高めろ。
 新しい方針で、ラップはいつの時代よりも積極的に生産現場にある男女の青年労働者、労農通信員の文学的創造力へ呼びかけている。その支持と、指導とをラップの任務と認めている。そして、健康なプロレタリアの世界観と社会的労働の経験の中にある若い労農通信員たちよ! ドシドシ文学活動へ参加して来い! そう呼びかけてい
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