る。
 この方針の実践は、今日、プロレタリア作家の産業別組織的生産の問題を起した現実的な原因――生産労働と作家活動との間に生じた分裂を、最も自然なプロレタリア文学全線の向上を社会的要因として、近い将来に揚棄する可能性を示すものであると思う。
 ファジェーエフは早速「ラップ」の仕事として、ソヴェト同盟内の各地方から労農通信員の文学ウダールニクをモスクワへ召集した。労農文学衝撃隊員は一万人ばかりやって来た。赤いプラカートの張りまわされた労働組合会館の広間で活溌な討論が数日間行われた。
 若い労農文学衝撃隊員たちは、再建設期にあるソヴェト同盟の生産と芸術に対する新しい活動の計画をもって再びめいめいの職場へ戻った。
 同時に「ラップ」は成員を拡大した。これまで、ラップ加盟員は大体から云って、もう一人前のプロレタリア作家になっている者、または、なりかけ位のものが多かった。一九三〇年、その限界線を「ラップ」は大胆に拡げ、ラップによって指導されている工場の文学研究会員も、ラップの正式な資格ある加盟員とした。
 工場内の文学研究会指導の任務は、五ヵ年計画第三年目当初において、従来に倍する重要な意味をもって、プロレタリア作家の前に現れたのである。
 工場の文学研究会というところは、労働通信員を中心とする若いプロレタリア文学の交代者が、そこで文学的技術さえ習得すれば足りる場所ではない。文学研究会を指導することによって、既成作家たち自身が、生産の場所にあるソヴェト新社会人の意志、感情に接触する大切な場所である。作家にとっての活きた勉強場だ。
 文学研究会に対するこの理解は、党大会後参加して来た構成派の作家たちを、「ラップ」がすぐいろんな工場の文学研究会指導者として配置したことでもわかる。構成派の人々のまだその尾として引いている未来派的傾向、資本主義末期の小市民的な観念や社会主義社会に対する観念は、現実の力によってだけ、健康に洗われ、鍛えられ得るであろう。

        農民作家の任務

 さて、ソヴェトの農民作家団はこの緊張した五ヵ年計画着手後の情勢の中で、どのような活躍をしているだろうか。このことは、特別にとりあげて調べられる必要がある。何故ならソヴェト生産拡張五ヵ年計画の核心は、都会では重工業生産の増大であり、農村では農業の社会主義化以外にない。ソヴェト同盟の人口の過半数は農民によって占められている。農業における社会主義生産が高められ工業との階級的結合が行われなければ、全体として生産経済の運転の社会主義化は実現されない。
 光輝ある「十月」ソヴェト政権の確立とともに、ロシアの農民ははじめて土地を自分のものとした。
   ┌───────┐
   │土地を農民へ!│
   └───────┘
 この歴史的なスローガンは、一九一七年の二月革命の当時、ケレンスキーの臨時政府も一応はかかげた。ともかく、それによって革命的な農民の支持を得なければ政府は一日の安きをも得ない情勢であった。が、ケレンスキーのブルジョア民主主義者らしい日和見戦術で、半封建的であると共に資本主義の土地関係を根本から建て直しが敢行され得るかのように想像したのが間違いであった。臨時政府はツァーの絶対制を立憲政治へこぎつけるまでがせいぜいで、失業と飢との間から、労働者、農民は、真に彼等の生きようとする要求を理解し、組織し、実践する党はどこにあるか。それを理解しはじめた。
 ブルジョア民主主義者に苦々しい背負投げをくわされたロシアの大衆は、今度は臨時政府を投げ倒し、プロレタリア階級の党、ロシア共産党(ボルシェヴィキ)と力を揃えて「十月」を遂行したのだ。
 一九一七―二一年の困難な国内戦の期間、農民がうけもった革命的役割は「赤のパルチザン」の功績にハッキリと現れている。
 ソヴェト同盟の第一騎兵隊《ペールヴァヤ・コンナヤ》と云えば、革命第十三年の今日、なおソヴェトの農民の誇りだ。
 第一騎兵隊は、ウランゲルの反革命軍を追っぱらった。第一騎兵隊はデニキンをやっつけた。第一騎兵隊はチェッコ・スロヴァキアの侵入軍をめちゃめちゃにした。――ソヴェトの地図は、第一騎兵隊の偉業をぬきに説明することは出来ない。その光栄ある第一騎兵隊は誰が、どのようにして組織したものだろうか? ペトログラード士官学校の急進的卒業生によって組織されたのだろうか? そうではなかった。グラトコフの「セメント」でわれわれがよんだように、工場の赤衛兵の発達したものであったろうか? そうでもない。ブジョンヌイという一人の農民出身で、戦術にかけては天才的な騎兵が中心となってこしらえたものだ。自分の厩で飼い馴れた馬にとびのり「白」に向って突撃した農民の集団であった。南露に分散していた「赤のパルチザン」は、ブジョンヌイの第一騎兵隊の噂
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