が、不思議なことに、その作品のモデルだとみずから名乗って作品のその醜さが当事者たちの名誉を毀損する、法律に訴えると、ジャーナリズムに大きな声をあげた男女の作家があらわれた。
他人にわからない文壇生棲間のもつれでもあってのことだろうが、この全く非文学的なセンセーションは作者が希望するしないにかかわらず「絶壁」を問題作とする一助となり、モデルであると名のり出た人々を脚燈の前に立たせた。
センセーショナリズムに対して抵抗を失った風俗文学の条件反射は、人情と芸大事の宗匠、里見※[#「弓+享」、第3水準1−84−22]や久保田万太郎などまでをいつかその創作のモティーヴのとらえかたにおいて影響しているように見える。由起しげ子の小説「警視総監の笑い」のモデルであったという老紳士が鎌倉で自殺した事件がおこった。鎌倉に住む作家で、その老紳士と交際のあったらしい里見※[#「弓+享」、第3水準1−84−22]、久保田万太郎に『読売』がインタービューしたとき、作家の立場として、由起しげ子の小説と結びつけてさわぎにすることの間違いは力説されなかった。久保田万太郎は、「近く『あきしお』という小説をかいてその人
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