故郷の話
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)素足のたたみ[#「たたみ」に傍点]ざわりが
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朝夕、早春らしい寒さのゆるみが感じられるようになってきた。
日本の気候は四季のうつりかわりが、こまやかであるから、冬がすぎて寒いながらも素足のたたみ[#「たたみ」に傍点]ざわりがさわやかに思われて来たりする、微妙な季節の感覚がある。
文学に季節がはっきり反映しているし、又作家が季節につながった思い出として故郷の春や、故郷の秋景色についてたずねられる場合も、なかなか少くない。
そういう時、私は自分に故郷と名づけるところがないということをよく感じる。私は東京で生れて、ずっと東京で育ったから、ここが故郷といえばいえよう。けれども、よそ[#「よそ」に傍点]に出て暮しているのではないから、例えば、大阪で生れて育った人が現在では東京暮しをしているとか、反対に東京生れの人が大阪にいて、武蔵野の景色を故郷として思いうかべる心持とは大変にちがう。
外国生活の間には、誰しも自分の生れた国をさまざまの面から深くながめ、理
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