ーブは、大きな大人が、こごみかかって自分に捧げる歓迎の言葉に、赤くなり、嬉しさと当惑とを半々に感じた。それでも、小さい足に力を入れて、先に立ち、勢いよく、別棟の、男の、住居に入って行った。
 その日から、彼は祖父の保護の下に置かれることになった。今迄のように、内房の嬰児ではなく、サアンガンの統治者となるべき少年としての訓練が始まった。スーラーブは、祖父の居室の一隅に積み重ねてある坐褥の上に眠った。空が明るくなると同時に起き出して、白髭の祖父と並び、天と地とを照し、正義ある王を守る太陽に礼拝することと、その時称うべき祈祷の文句を教わる。
 少量の朝餐が済むと、日が山陰に沈む迄、彼は、戸外で暮した。祖父か、或は他の臣と共に馬に騎《の》り、狩に出かけ、何もない野原で食物を煮る火を作ることから、馬の傷の手当をすること、獲った動物の皮を剥ぐことまで――一人の勇ましいツランの戦士が知らなければならない総てのことを、男らしい、実際の場合に即したやり方で、教え込まれるのであった。活々した冒険心に富んだスーラーブの少年期は、極く愉快に三年経った。彼は十歳になった。その年、厳しい冬の間から祖父が内臓の苦痛
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