「気がおつきでなかったのだろう」
 スーラーブは、何だかいつもとは調子の違う気のない母の応答ぶりに注意を牽かれた。何処となく堅くなり、強て興味を唆《そそ》るまいとし、一刻も早く話題の変るのを希っているようにさえとれる。彼は宝石の面に吸いよせられていた瞳を辷らせて、母の様子を見た。ターミナは、自分も一緒に珠の美しさに見とれたように、下目はしているが、顔には、張り切った注意と一寸した彼の言葉にも感じそうな鋭い神経があらわれている。――
 スーラーブは、膝の上に肱をつき、屈《かが》んでいた体を起した。急に湧き上った疑問に答えて、彼の頭は、種々の推測を逞くしだした。第一、この地方で土耳古玉は、珍奇な宝玉に属する。母の意味ありげな素振は、何か、この珠の由来に特殊な事情のあることを告げているのではないだろうか。母のこれ迄の生涯で、若し特別な出来事があったとすれば、それは、自分の何より知りたいこと、知りたい人に、連関したものでなければならない。
 スーラーブは、胸の底に熱いものの流れ出したのを感じながら、凝っと、俯向《うつむ》いている母を眺めた。
 愈々時が来たのか? 余り思いがけない。あんなに隠さ
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