。美しい紅色の瑪瑙《めのう》なんかは、いつ見てもよいな」
 ターミナは、遠慮深そうに、
「もう派手な宝石でもありますまいよ」
と云った。
「女達のに、さっぱりしたのを少しばかり見てやっておくれならさぞ悦ぶことだろうけれど」
「女達も女達だが……」
 スーラーブは、何心なく顔を近よせるようにして、母の胸元を見た。
「どんなものをしておられます? いつもの卵色のですか」
 彼にそう云って覗き込まれると、何故か、ターミナは、品のよい顔にうろたえた表情を浮べた。そして、さりげない風で、低く、
「別に見るほどのものでもありませんよ」
と云いながら、落付いた肉桂色の上衣の襞の間に、飾りを隠そうとした。が、頸飾りは、彼女の指先をもれ、スーラーブの目に、鮮かな碧色の土耳古《トルコ》玉がかがやいた。手の込んだ細工の銀台といい、立派な菱形に截《き》った石の大きさ、艶といい、調和のよい上衣の色を背景に、非常に美しく見える。彼は、母が寧ろ誇ってそれを見せないのを不審に思った。
「素晴しいものではありませんか」
 ターミナは黙って、自分の胸元に目を注いだ。
「余程以前からあったものですか? 一寸も見なかった」

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