逸《はや》る年頃のあの若者が、今一息という際で、自分の命を許したのだろう。

        四十六

「許す! 許す!」
 苦々しげに、白髭をしごき、ルスタムは頭の裡で呟いた。「実に、恥辱極まることだ」
 彼が人目をさけて天幕に戻り、ギーウを拒んだのも、自分が慈悲を受けたのを目撃した、その眼を見るに堪えなかったからなのだが、思えば思うほど、彼に若者の心持は不可解であった。何のために彼はあんなに皮肉な念を押したのか。
「ルスタムでは、ないのだろうな[#「ないのだろうな」に傍点]」
 それを思うと、ルスタムは、全身が焔をはくような気がした。あの無念さ。飛びついて煙を吐く火花とならずに、しめっぽい涙が出たのは寧ろ不思議な位だ。
 然し、何故、あの若者は、あの好機をはずしたろう。何が躊躇させたか。ルスタムは、知らないうちに腰架を立上り、天幕の円錐形の屋根の下を、彼方此方に歩き出した。
 そして、一つの考えを追った。ごく表面的にとれば、ちょっとしたはずみであったらしくも見えるそのことの裡には、ルスタムの心を牽いてはなさないものがあった。
 フェルトの長靴は、地に跫音を立てない。背後に両手を組合
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