彼は、甲冑の奥に母から貰った頸飾りのあることを自分に確めた。微かに戦慄が起るほどの緊張で、而も頭は澄んで、スーラーブは、敵の前面を見渡した。

        三十八

 この時、ルスタムは、まるで、これ迄と異う地味な目立たない武装でイラン軍の後方にいた。彼は、特殊な感情を以て、一騎乗り出して来たツランの若者を見た。しゃんと武装を調えたところは、昨夜、見た同じ者とは思えなかった。多勢のツラン兵の前に立ってひとりでに比較されて見ると、彼の眼には、何処か若者の相貌に、イラン風なところがあるようにさえ感じられた。ルスタムは、灰色の馬を歩ませて、もっとよく見える前列の傍に出た。
 今度そこに来たら充分視ようと心構えした時、スーラーブは、ぴたりと馬を停め、高らかに大胆な挑戦をしかけたのであった。
「流されたツラン人の血は」という一言をきくと、ルスタムは、むかつく嫌な衝動を感じた。昨夜のことは誰一人知っている者はない。この文句の正しい意味のわかるのは自分ばかりだろう。せっかく抱いて行った優しい思いが失望に終った上、まるで偶然で避難かった、自分でも厭々した殺傷が、挑戦の口実に物々しく利用されたのをき
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