で云った。
「大将、わが大将、――礼」そして、自分のツランの礼の形をして見せた。
 スーラーブは、厳しく手を振って、眇の男を追のけた。彼は先に立って歩み出した。
「此方に来い」彼等は、足枷の許す緩い歩調で高地の出端まで来た。其処からは、朝の光の海の裡に一目でイラン方の陣が瞰下せた。幾つもの天幕が起伏した間に平地の上を行き来している兵卒の姿までくッきり見えた。スーラーブは、暫く黙って眺めた後、捕虜に云った。
「卿に尋きたいのは、どの天幕が誰のかということだ。あの大きな旗を立てたのは、イランの王の天幕か?」捕虜は、スーラーブの横に、一歩ほどしざって佇んだ。彼は、顔を正面に向けたまま、まるで感動を示さない調子で答えた。
「そうです」
「あの、黒い鞁天幕は? ずっと右手」
 捕虜は、頸を動かさず、瞳だけ其方にやった。
「――ギーウ」
 スーラーブは、思わず、「ふむ」と満足の鼻息を洩し、顔が赧らむのを感じた。彼は、こんなに素直に捕虜が云ってくれるだろうとは夢にも思っていなかった。彼の希いはもう一つで満されるところまで来た。
 スーラーブは、速くなった鼓動が自分だけにしか感じられないのを幸に思いながら、最後の質問を出した。
「左の端にもう一つ大天幕がある。あれは誰のだ?」
「――……」
 スーラーブは、答えがないので捕虜の顔を見た。男は、相変らず正面を向いて、スーラーブの声が聴えなかったと思われる様子だ。スーラーブは、捕虜の顔付に注意しながら、もう一遍、問を繰返した。
「あの左の端の天幕は誰のだ?」
 スーラーブの言葉が終るか終らないのに捕虜は、ずっぱり云った。
「知りません!」
 スーラーブは、覚えずむらむらとした。男の調子はひどく不誠実で、この問だけにはこう答えると、宛然前から定めていたように響いたのであった。スーラーブは、燃えるような眼付で捕虜を睨みつけた。
「よく視ろ!」
 やっと、失望と憤怒とを制し、彼は云った。
「左手、ずっと左の端だ。誰のだ? 知らぬ筈はない」
「――……」
「誰のだというのに!」
 スーラーブは、ここぞという処で裏切られた口惜しさに、相手を張り倒したいほどの衝動にかられた。

        三十六

 自分が知りたいのは、狙ってルスタムを殺そうためではない。正反対だ。知らしてさえくれたら、今日これからの手合せに、血も流さず、永年、遠くから牽き合
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