気質と罵った。吉田健一の「英国文学論」を引いて、イギリスでのように文学は日常生活のふち飾りであるべきだと、林のこんにち的内容をもった「大人の文学」論をのべている。そして、同座の中野好夫に向って、あなたもこれから批評家としてやって行くためにはこの点だけはよく心得ておきなさい、といった意味を、きわめて高びしゃに申しわたしている。批評家中野好夫は、林の僭越さにむっとしたからこそ沈黙をもって答えたのだったろう。しかし、読者としては、中野好夫が沈黙で答えたもう一つの理由も感じとられなくはなかった。中野好夫の場合にも、前にふれた二人の作家と同じように、私小説と私小説的リアリズムを否定している自分が自覚されている。その自覚におさえられて宇野のリアリズムは別の問題として林のこんにちの「大人の文学」論の本質に迫ることをしなかった。
昨年は一般に批評の沈滞した年としてかえりみられている。民主主義文学運動が沈滞して、批評の沈滞がひきおこされた点からだけ見ようとしているひともあったようだ。しかし、批評が無力であった根本の原因は、ある人のいうように、民主主義文学も「たかがしれた」からだけではない。戦後、すべて
前へ
次へ
全21ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング