のむずかしい現実がひそんでいる。
労働運動の波が高まった年々の間に、たくさんの職場から若い作家が生れかけた。小説は、勤労する人民としての個々の日常生活を題材とし主題としたものが多かった。組合活動とはなれる職場作家という問題は、その根源に、文学のそとの複雑な基本的諸問題をふくんでいる。民主的な文学の陣営に属しているいくたりかの既成作家の文学活動がそのよくない影響によってそういう結果をひき出しているという強弁が一時流布したことがあった。そして一方に、文学に対する経済主義の偏向があらわれた。民主的評論、批評の活動は、あやまった一方的な見かたを正しい関係におき直すために多くのエネルギーを費さなければならなかったが、いわば、そこで息切れした。田中英光の「オリムポスの果実」からはじめられて「少女」「地下室にて」を通り「野狐」その他に到った過程の検討を、民主的批評がとりあげることも必要であった。しかしそれはたいしてされないままであった。現代文学はいつの時代よりも創作態度が意識的になっている。その意識性は、現在大部分がそこに陥っているように商品としての独自性を形成してゆく意企として存在するばかりでは
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