りかえて、それに映れば焦点がわれて、かざされる剣が光輪のようにも見える状態をつくろうとしはじめている。
 第一次ヨーロッパ大戦の後、西欧の小市民生活の安定がつきくずされた。旧い権威は、王座において個々の家庭において崩れた。この社会的不安が肉体にあらわす精神障害を、一つの抑圧されたコムプレックスとしてフロイドは解明しようとした。当時でも、この方法は十分科学的ということはできない、精神現象の生物的性格に局限された扱いかたであった。しかし、フロイドの精神分析は何かの形で、当時の精神苦悩を解決するように思われた。西欧の文学はその時代において一方にプロレタリア文学の道を拓き、その反面自身の歴史的展開の方向を見失った面では、フロイドの学説に動揺する心理のよりどころを見いだし、心理主義に進んだ。その女流選手であった英国の※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ージニア・ウルフが、こんどの大戦がはじまってまもなく、生きつづける精神のよりどころを失って、自殺したことは、私たちに深い暗示を与えたのであった。
 私たちは、生きることを愛する。働きのうちに歓喜を覚えて生きることを欲する。そのために、私たちが自身
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