てきたし、人間理性への信頼を毒されてきた。精神を低く屈しさせられれば屈しるほど、その息づきのせわしさが自覚される三分の魂をもって、自身のうちに疼《うず》く内部反抗を自覚した。一分低くなれば一分だけ、五分ひくめられればさらに五分だけ、自分の心にばかり聴える抗議の叫びの痛切さを愛し、その真実にたより、それによって、屍とされてもなお死なざる人間としての自己を自分に知ろうとしてきたのであった。
 日本の権力の半封建な野蛮さが、人間性をどれほど歪め終せたかという現実を、こまかに眺めるとき、こころは燃え立つばかりである。なぜならば、人間性をそのように畸型な傴僂《せむし》にした権力は、よしんば急に崩壊したとしても、けっしてそれと同じ急テンポで、人間性に加えられた抑圧の痕跡、その傴僂は癒されないものとして残されているからである。それのみか、一年の時を経た昨今、彼らは呆然自失から立ちなおり、きわめて速力を出して、この佝僂《くる》病が人間性の上にのこされているうちに、まだわたしたちの精神が十分強壮、暢達なものと恢復しきらないうちに、その歪みを正常化するような社会事情を準備し、客観のレンズを奇妙な凹凸鏡にす
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