、心からの同感や協力を感じないように、何となし迷惑めいた気をもつように、扱われている。働く人民にとって、こういう風に互の一致を裂くように仕向けられているということは、十分注意しなければならない点である。
農民と都市の勤労者との間にも、同じような離間の方法がとられている。精根つくして自分で米をつくっている農民が、強制供出に応じなければ、刑にふれて牢獄に入れられることになった。供出したがらないには、農業会、統制会、その他の全配給機構への農民の不信任があるのだし、第一には、これまで俺たちは騙されていた、という支配権力に対する深い思いが原因しているのである。
都会の消費者は、目前の食糧難に気がたって、つい農村を羨み、怨むような気分になる。しかも、双方にそんな思いをさせる政府こそ本当の対手なのである。
発表された憲法草案は、日本の運命にとっていろいろ真面目な問題を持っている。第十二条に、「凡そ人は法の下に平等にして、人種、信条、性別、社会的地位、又は門地に依り政治的、経済的、社会的関係に於て差別をうくることなきこと」と明記されている。一方、人であって他の動物ではない天皇というものが、全く特殊な立場に固定され、その地位は世襲であり、一代にしろ華族というものが存在するのは、どういう矛盾であろうか。
更に、この条項を眺めていると、私たちの心には、まざまざと先頃厚生大臣から発表された最低賃銀の規定が浮んで来る。男子三〇歳―五〇歳、四百五十円。女子一五〇円と。「人」といううちに、女子を含まないはずはない。人というなかに、三〇歳未満の青年たちがふくまれないというはずはない。女子の社会勤労が1/3と価づけられているのも不合理であるが、三十歳以下の勤労青年が、最低賃銀のきまりさえも与えられず、女子と共に、雇主にとってごくやすくてすむ労働力として公然と示されていることについて、若い人々は、どう感じているであろうか。
モラトリアムで学生の学費一五〇円と制限されたが、この食糧難、住宅難、まして交通費の膨脹で、学生は帳面一冊買いにくいこととなった。文化の最も大切な資材である紙は決してやすくなっていない。印刷費は却って上って来ている。憲法草案第二十一条には「国民はすべて研学の自由を保護せらるべきこと」とあるのである。
五百八十余万人の失業者、そのほかにかくされて深刻な社会問題となっている夥
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