も使いへらして来た女のひとが、目の前に見得るのが満天の灰色な空虚でしかないことも、恐ろしいことです。精神的にも、女の自主的な部分が拡大されることは、私たちの生活の毎秒ごとに起っている悲劇のいくつかを防ぐであろう。悲劇を惨劇に終らせぬ力を増すだろう。そのためにもと、あなたは、女に職業としてではなくても仕事があった方がよいとお考えになる。
家庭にいても何か一つ本気でやろうとする仕事をもっていれば、確に彼女は時間の上手なやりくりや家事の単純化を実行するでしょう。些細な日常の感情|軋轢《あつれき》を整理することをおのずから学ぶであろうし、その点では、仕事そのものの上達につれて二重の賢さ、生活術を会得してゆくわけになります。この事は実際上、良人や子供の理解なしにはなりたたないから、好都合な事情で運べば、よい妻、いい母さん、そして手芸であれ、エッチングであれ何か一つの仕事をもった女主人として、描かれる一家団欒の画面は非常にこまやかで活溌な生気に溢れていることも想像し得るのです。
女の生活と仕事をもつことの意味、有益さについて、ここまでは至極わかりやすいのではないでしょうか。結婚したら女房には稼
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