状態に陥ったのであった。
今日、人民全体が既成の「政治」に対しては懐疑的であるし、監視的なこころもちを抱いている。それは、本当に当然なことではなかろうか。今日の饑餓と社会生活全面の破綻をもたらした戦争について、人民を其処へ追い込むまいと献身し、わが身を犠牲とした代議士が、一人でも在っただろうか。只今開催中の臨時議会は、戦争犯罪人の摘発に脅かされて、新聞はおのずから諷刺的に彼等の恐慌を語っている。社会生活の破壊がもたらす様々な辛苦を、家庭で婦人は自身の皸《あかぎれ》のきれた手によって知っている。婦人の参政権どころか、「食べることの方が忙しい」と反撥する気分を、ひとくちに、日本婦人の無智とばかり見るのは皮相の観察であると思う。「政治」が、今まで何をしてくれたのか、という鋭い感情がその底を貫いて走っている。結局頼れるものではなかったではないか、そのような「政治」に、何を今更、この忙しいのに、というボイコットが示されているのである。
「食べることの方が忙しい」という表現の心理を辿れば、刻下の逼迫は人民がみんな自分たちで何とかやりくって行かなければならないのではないか、という公憤に立っていると
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