と安らかさがたたえられている情景だろう。
 いまの日本で、こういう写真を見るとめずらしい気もちが起る。写真につけられている説明をよんで、わたしは、ひとしおしげしげとその写真を眺めなおした。というのは、そのスナップは一つの「家族写真」で、幸福そうな若夫婦はエリザベス王女とエディンバラ公であった。かわいらしい男の赤ちゃんはチャールズで、夏別荘に暮している一家のスナップなのだった。
 エリザベス王女のあらゆる種類の写真が世界にひろがっている。威厳がありすぎるほど威厳にみちた王女エリザベスとして、妹のマーガレット・ローズと比較して語られている。数々のスナップのうちで、こんなに自然な若い母の笑顔にとけた彼女の表情はほんとにめずらしい、彼女の女として幸福を感じる瞬間は、その生活のどんなところにあるかということを思わせる写真だった。
 それから間もない別のある朝のことだった。わたしは新聞の上に一つのニュースをよんだ。それは最新化学兵器についてのニュースだった。おそろしい化学力をもつその兵器の効果は、すべての人類をたちまち醜い不具にして、死滅させる威力をそなえているものであると説明されている。それを公
前へ 次へ
全11ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング