りたたない。そして、そのような互の資質は、その時になって急に見出されるものでも、つくりあげられるものでないことは明らかである。
 それにまた、このように産め、殖やすことの要求されている時代であるからこそ、その一面には、今日までの優生夫妻が、いつ、どこで、どのようにして、その肉体の条件に変化をこうむらないものでもない。現に今日の日本では、おびただしい良人と妻とが、離れ離れの平常でないあけくれを経験している。それらの良人、それらの妻は、どんな互のきずなによって、それぞれに多難な生活の事情のうちで互の誠実を処理して行っているであろう。ここにも直接産みふやしてゆくだけが、人間の結婚生活の全部でないという真実が示されていると思う。
 昔の「女大学」は、子無きは去る、という条項を承認して女にのぞんでいた。再びその不条理な不安が、子のない妻たちをさいなもうとするのであろうか。
 そうでなくても、子供のもてない不安で、これまで夫婦の生活に神経をつかっていた多くの妻たちは、この頃のような声々の中で、あるときはふっと、よそに生れる自分の良人の子供というものを思い、自分の感情がそれに馴れ難いことを新しく感じ
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