現実だと思う。
 恋愛の感情にしろ、天を馳ける金色雲のようには見ていないと思う。もっと、私たち人間が自然に生きてゆく毎日の感情のなかにある一つのものとして、互の理解に根ざした生活的なものとして感じていると思う。まじめなつつましい心のすべての若い人々は、架空の恋愛を求める気はなくても、互にわかりあえるあいてというものを見出して結婚したいという切実な願いはいだいていると思う。そして、そのようなわかりあえるあいてとして互を見出したとき、互に感じる魅力の飽きなさと、調和と、求めあう心などこそ恋愛の精髄で、それは結婚生活の永い年月を経ていよいよ豊富にされ、高められてゆくものだと知っているだろうと思う。
 子供を産む、ということが女性にとって決して行きあたりばったりのことではないというところから、逆に、ホーソンの小説の「緋文字」のような悲劇もひきおこされて来た。
 今日、産めよ、殖えよということにつれて優生結婚がいわれているとき、そこに達する過程として互の愛や理解のことが知らず知らずのうちに省略されているのは、目前の必要が性急であるのとともに、やはり日本の旧い習慣の影響だと思う。今日の空気のうちで
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