ない事ですけれども、解る気のまるでない人に解らせようとすることは、不可能です。解らせようとする間に、私の命は減ってしまいます。人の悪い、間違った、不幸な生活許りを見つけ出して、俺はどうだ! と云うような人に、私は解って下さいとたのむほど、卑怯に、弱くなれません。
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「御免遊ばせ。其は皆さんが種々の事を仰云るかも知れませんわ、けれども、私は彼の方を愛して居りますのよ、此からも、此からも愛します。種々な事を云っても、何をしても、結局、皆が真個に愛し合って、お互に鼓舞して、段々よりよい生活に入って行くことを望んで居るのじゃあ、ありませんこと?
其は私は若いから(泰子は一種の表情をした。)間抜けな事は沢山するでしょう。けれども、私の持って居るそう云う希望は、間違って居るとは思いません。決して!
私は、自分が、此こそ! と思ったものは離しゃしないことよ、どんな事があっても、何と云われれても、私の命は、私の命です。
私の愛すものは、私の[#「私の」に傍点]愛すものよ、
[#ここで字下げ終わり]
「私の愛す者よ!」と云う瞬間、泰子の激した、思い上った燃えるような眼には、
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