さ霧のような湿りが来た。
黄銅時代のために。
彼等の運命より、
「彼は、彼女の眼の中に、彼の為ならばどんな事でもする。どんな罪でも犯す。彼女の身は彼の如何なる暗黒な意にも委せると云う意志を読んだような気がした。」此の心持を逆に自分は経験するのだ。
決して、理知は暗黒な意力、或は暴威を、互の為に許しはしないのだ。が、或瞬間、情熱の爆発は、其の忘我まで自分を馳り立てる。
彼女は――自分は――その忘我が、感情に於てふんだんの女性である自分にとって、不可抗なものである事を熟知して居る。
其が故に、彼女はその忘我の裡に恍惚とした我をも、何の恐れなしに委せ得る人を、見出さなければならない。彼女の良人は、彼女の守護者でなければならないのである。
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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