すますと、溶け出した水の滴が、ひそやかに雨どよの中を流れて行く音さえ聞える。
しめっぽい、しっとりとした、楽しげな早春の夜。
○緑色と卵色の縞のブラインドのすき間からは、じっと動かない灯と絶えず揺れ動く暖炉の焔かげとが写り、時に、その光波の真中を、若い女性らしい素早い、しなやかな人かげが黒く横切った。
○子供は、両端の小さくくれたくくり枕のような体を盛に動して家中をかけ廻った。
○弱い、疲れた日差しが、細かい木の枝や葉のもつれをチラチラと壁の上に印して居る。その黒と黄の入り乱れた色彩は、そのディムな感じからも、まるきり、黄色紙にされたエッチングを見るような気がした。
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「私には不思議に思われます、真個に不思議に――。考えて御覧遊ばせ。私共はお互に独身で、本当の心から愛し合って、結婚しようとして居る。そう云う人々が一日中沢山の時を一緒に過したり、一緒に歩いたりすることが其那に騒ぎな、何かいけない事のように思われて居るのに、一方では、本当に間違った prodigality が黙って通用されて居る。
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解らない人に解らせるのは雑作も
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