偶感
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)希臘《ギリシャ》
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非常に愛らしい妹を得ると同時に、危ぶんで居た母の健康も廻復期に向って来たので、私は今又とない歓びに身を横えて居る。
それに、来年の四月頃に、何か一つまとめた物を出して、知人の間にだけでも分けたいと思って居るので、その出来上って居る腹案を筆に乗せるのに毎日苦しんで居る。
八月中には、大体の結構は出来上って居なければならない。
九月中には、胚胎を訂正し、次の月には、何か一つ出来たら書き、若し出来兼ねたら、鈍色の夢をも一度見なおさねばならない。
その時はかなり熱して書いたものも、今になると、あきたらぬ節が思いの外に多いのに失望する。
それは、私にとって嬉しい事であると同時に、何となし不安定な様な心のする事である。
或る一つの仕事を仕あげ様とする快いせわしさと、苦しさに迫られて居る。
今の気持では年に一つ一つ何か遺して行きたいと思って居る。
二年後には、希臘《ギリシャ》古代の彫刻家を訳して仕舞えるだろうから、そして三年目には、又何か一寸した創作でもまとめて見たい気で居る
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