しい生活への進展ということが、私にとって冷々淡々としておられる「ひとごと」ではなくなって来ます。
逝去の報知を手にした時、自分の心に衝上って来た、驚き竦え、考えに沈んだ心持は、恐らく、これ等の見えない原因を背後に持った私自身へのアラームであったのだと思われます。あれ程健康そうに見え、自分の良人に比して、大した年長でも在られない博士の死去という事実によって、「どうする?」という直覚的な反問が避け難い力を以て私自身に投げ付けられたのです。
私が、こうやってこれを書いている心持は、近頃の、何でも婦人雑誌の「問題」にしたがる、いやな流行的亢奮からは非常に遠いものです。
自分の良人を深く深く愛し、謙遜に、恭々しく、出来るだけの努力でその愛を価値高い、純粋なものに浄化させて行き度いと希《こいねが》う自分は、最も計り難い、最も絶対な一大事として、愛する良人との死別ということをも考えずにはいられなく成ったのです。
今、自分の心に鎮まり、次第に深大なものになりつつある愛は、それによってどんな影響を受けるか。
どんな径庭によって、どんな進展をするか? 勿論、考えようによっては、これ等のことは事実
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