に面接しなければ話にも成らないことかも知れません。或る人は、不吉な空想を逞しゅうするという不快さえ感じるかもしれません。然し、今、静かに、厳しい内省を自分自身に加える時、私はこれ等のことごとを畏怖なしに考えることは出来ません。
 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。
 私の全心にとって、今、良人の死を予想することは、一つの恐ろしい空虚を想うことです。激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはいられません。
 私には、たとい良人の形体は地上から消滅しても、彼の全部は、皆、彼との結婚後更生した自己の裡に、確に、間違いなく生きているのだ、という全我的の信仰、安住も持ち得ないのです。
 現在、私の心を満し、霊魂を輝やかせ、生活意識をより強大にしている愛は、本質に於て不死と普遍とを直覚させています。
 けれども、若し、明日、彼を、冷たい、動かない死屍として見なければならなかったら、どうでしょう!
 心が息を窒《つ》めてしまいます。
 私がそれを信じ、それに遵おうと思わずにはいられない愛の理想的状態と、真実に反省して見出した愛の現状
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